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宮部みゆき 『あやかし草子 -三島屋変調百物語 伍之続』 ~ 度肝を抜かれ、めまいがするほどの、主人公・おちかの名言で、感動の《第一期》が終結します。

 このブログに、私も数冊読んだ、有名な女性作家の方が訪ねてくださいました。元気が出ました。

 猛暑の中、行きつけの新橋・第一ホテルのランチ・ブッフェを食べた後、日本橋・三越に行って「みんなの寅さん」展を観て来ました。12月上映の50作目のプレ・イベントなんでしょう。
 山田洋次監督直筆原稿を観られたことは良かったですが、それくらい。私は、招待状だったから良いのですが、入ったと思ったらもう出口。その間は、大半がポスターで、入場料(800円)を払った人は怒るのでは・・。

 本題です。
 きょうの本は、

宮部みゆき 『あやかし草子 -三島屋変調百物語 伍之続』(角川書店)

です、
 ぐっと分厚い565頁ですが、面白いので、頁の多さは全く気になりません。

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 シリーズ第5作目。これまで、断続的に、4作目まで全て読み、いよいよ、現在出版されている最後の、5作に追い着きました。
 このシリーズは、人間の奥底を描いて、何れも内容が《重い》ので、第4作を読んだ後、しばらく間を置きました。そのせいで、登場人物が、皆、懐かしい。

 この第5作で、・・勝手に名付けるのですが・・《第一期》が完了のようです。
 主人公・おちかの祝言、それによって、聞き役が富次郎へ交代する、という感動の結末を持って終わるからです。

 今回、読んで気づくのは・・、
・ おちかの、実家「丸千」での《事件》からの〈日にち薬〉の効き方。
・ 小旦那・富次郎の新しいキャラクターぶり。
・ 叔父夫婦の、これまでの苦労と良い歳の取り方。
・ 江戸の商家の日々の暮らしぶり。
が格段に良く描かれています。
 書名「あやかし草子」は、富次郎が、「変わり百物語」をおちかの脇で聞いた後、その印象を1枚の絵に描いて、それを仕舞って置くための桐の大きな箱のことです。

 さて、内容は・・、

 今回は、第一話「開けずの間」から、三島屋の小旦那である次男・富次郎(おちかの従兄にあたります。21歳。)が、「変わり百物語」の聞き役に加わりました。聞き終えた後には、聞いたあやかしの語りを1枚の絵に収めます。これが、まずは、新趣向。 
 なお、因みに、三島屋の若旦那(跡継ぎの長男)・伊一郎は、通油町の小物売商・菱屋に修業に出ています。こちらが若旦那ですから、次男・富次郎は《小旦那》という訳です。

 ところで、主人公・おちかは、川崎宿の旅籠・丸千の娘ですが、昔、おちかを取り合った二人の男性のうち、許婚・良助(よしすけ)が殺され、下手人も、おちかに恋心のある幼なじみで自死してしまうという悲劇がありました。
 この心に負った傷を、〈日にち薬〉で癒やすため、実家を離れて、江戸の叔父・伊兵衛の営む、小物屋である三島屋で、娘+女中の様にくらし、さらに、叔父の発案で、トラウマを癒やす一助になるように、三国屋の奥の黒白の間で、人の怪異な話、「変わり百物語」を、「名はふせて可、聞いて聞き捨て、語って語り捨て」で聴くこととしています。

 本書では、これを始めてから、約3年たっています

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 第一話「開けずの間」は、元吉原の大門にあった、金物屋の三好屋に取り付いた〈行き逢い神〉によって、一家、つまり・・、

松吉(長男。28歳・道楽息子だが、世事には通じている)、
竹蔵(次男。25歳で実質跡継ぎ)、
梅吉(三男。19歳・病弱)、
平吉(四男。今回の語り手)と、
おゆう(長女。27歳で、19歳で嫁入りして24歳で、子ども2人を置いて出戻り)、
おりく(次女。17歳・優しい、極端な馬ずら顔だが、縁談が有る)、
おみち(三女。17歳・器量よしだが性悪)ら、

年齢並びで言うと、
松吉、おゆう、竹蔵、梅吉、おりく、おみち、末吉、となります。
 因みに、松吉と平吉は、18歳離れています。

・・が、全滅した話を、唯一の生き残り、平吉が語る物語です。

 発端は、婚家を追い出されたおゆうが、子ども会いたさに、塩断ち(そもそも、その塩自体、厄払いの意味があり、それを絶つのはどうかとも言われるのですが)している最中に、川辺であった女〈行き逢い神〉(「願いをかなえる神」。ただし、代わりに誰かの命を差し出さなければならない。)から貰った柘植(つげ)の櫛(くし)を、家に持ち帰ったことから、一族が、順次、全滅していきます。
 例によって、霊、あやかしが、人間の心の奥底を映しているようなところがあって、不気味さが倍加します。やや、くたびれてしまう、重い話です。
 ・・初っ端から、ずんと、ヤラレました。

 第二話「だんまり姫」は、一息つける物語です。
 まずは、神無月(10月)は、八百万の神が出雲に出かけるので、唯一、留守番をしている恵比寿さん、その「講」の面白い話から始まる、やや光明がさす物語です。

 ここに出るのは、〈もんも声〉という、人ならぬ化け物の声をした、おせい(52歳)が主人公です。
 この声の持ち主は、声の出し方によって(大きな声ならば、〈もんも〉に良く聞こえてしまい、小さな声ならば、地をはうように、これも聞こえてしまいます。だから、声を出さないのが一番なのですが。)亡者を呼び出してしまいます。

 それで、声を出さなくてすむ、耳が遠くて指文字・身振り手振りで話している老夫婦(五兵衛・陸)の隠居所で約10年勤めます。その老夫婦亡き後、本家の主人に紹介されて、城のお姫様(加代姫)に仕えます。

 この姫は、言葉をしゃべれない〈だんまり姫〉で、おせいは、老夫婦のところで覚えた指文字・身振り手振りを、もう、筆談で話すのが面倒になってきた姫に教え、重宝されます。

 ところで、〈もんも声〉は、一方では、世のため・人のためになる能力があると、村の老女から教わったことをおせいは思い出します。
 そこで、おせいは、姫が言葉を失った原因を突き止めようと努力します。

 そして、おせいは、姫の〈おまる〉係として、姫に遣えるなかで、やがてその原因が、城の当主・邦一(くにかず)と、年子(としご)に生まれた一国の、それぞれを跡継ぎに推す派閥が出来て、その争いに責任を感じた、城代家老を勤める祖父・滝沢新右衛門に殺された一国(いっこく)の無念を知り、一国が、城外に魂が出て、安穏に暮らせる手当を尽くし、姫の声を取り戻します。

 先述した、恵比寿さんの話や、便所の〈かどうま〉の話、果ては、お城のお女中達は、着物を厚着しているので〈おまる〉を遣うなど、面白いエピソードも満載です。

 第三話「面の家」。語りは、押しかけ、飛び込みでの語り手、貧しい娘・お種(たね。15,6歳)が、人に話すことを禁じられているという話を、厄落としのつもりでします。

 逃げ出すと世の中に災いを起こす〈(めん)〉を閉じ込めている家に、〈番犬〉として雇われますが、金に目がくらみ、面が逃げるのを見逃してしまい、3か月で追い出されたのです。
 結局、その時逃げた面は、松永街で夜火事を起こし、家の者に連れ戻されたので、このことをしゃべったお種も、聞いた三島屋のメンバーにも災いが起こらなかったのが幸いでした。
 江戸の庶民の暮らし向きが丁寧に描かれています。下級武士の暮らしが描かれているのが、次です。

 第四話「あやかし草子」です。本書の書名になっています。
 三島屋に出入りする、お馴染みの貸本屋・瓢箪古堂の勘一が語る、貸本屋の写本を請け負って、妻の死後、娘・花枝(7歳)との暮らしを支える武士・栫井(かこい)十兵衛(30歳過ぎ)の物語です。

 先年、長患いのすえに逝った妻の薬代の借金を返しながら、娘と何とか暮らす武士の元に、思いがけない百両の写本の仕事が、大名家などを顧客にする、版元もする大きな貸本屋を営む井和堂の一泉から舞い込みます。
 百両の大金ながら、写すのは、わずか30丁ほどの、この10年ばかり市中で撒かれた瓦版などを集めた薄い草子が1冊で、期間も半月。

 しかし、それには、内容を読んではならない、出来上がった冊子は原本とは違うものになっている、など難しい条件がありました。
 栫井十兵衛は、それを請け、完成します。

 しかし、写本を作った栫井十兵衛は、瓦版から、自分が、〈女敵(めがたき)討ち〉の相手になっていて、三年後の6月朔日(ついたち)に、討たれることを知ります。
 妻は、昔、縁談があったのですが、栫井十兵衛と駆け落ちしました。妻を寝取ったわけでは無いので、藩主のお咎めが無かったのですが、藩主が変わってから、前藩主の方針が、全てひっくり返されて、女敵討ちが認められたのです。

 死を知った栫井十兵衛は、百両を元手に、借金を返し、柳島村に移転して、農家の子ども達の手習所を作り、良く出来た美津江という夫と死別した武家の女と再婚し、瓢箪古堂の勘一には、娘の様子を見るように頼み、結局、3年後に討たれて死にます。

 その草子の謎は、結局、勘一が一泉とその後「会うのを忘れた」と言うことで、謎のまま残る・・ように終わりかけますが、
 ・・・おちかは気づきました。

 勘一が、その謎を確かめて知ったこと、そればかりか、勘一も、その写本を同じように写して、自分の寿命を知ったことを。

 おちかは、勘一に、寿命を一緒に見届けさせてほしい、と求婚します。
「見届けられるよう、わたしを嫁にもらってください。おねがいします」
 読者が、度肝を抜かれる感動の名場面です。
 読者にとっては、えっ、そうなった !?です。

 途中、幕間劇の様な感じで、15歳を振り出しに6度結婚した婆様の話と、おちかの実家の兄・喜一が、「丸千」の女中のおえいと結婚した話が入ります。
 おえいには、死に別れた先夫との間に5歳の女の子がいますが、もう、お腹には、喜一の子どもがいるとか。
 この一連の話は、おちか結婚の逸話の地ならしでしょうか・・。

 そして、おちかは、めでたく祝言に。
「変わり百物語」の聞き役は、豊次郎に受け継がれます

 本書の最後は、豊次郎にしみじみと語る、兄・伊一郎の物語(第五話 金目の猫)で「幕」となります。兄弟の話がいかにも良い雰囲気です。

 次からの「変わり百物語」の新趣向に大いに期待します。しかし、宮部みゆきさんは、本当に巧いですねえ。

 さて、今、10月国立劇場・歌舞伎公演の、四世鶴屋南北「通し狂言 天竺徳兵衛韓話(いこくばなし)」の予習、研究を始めています。上演も、資料も少ないので、なかなか苦労です。★
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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