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木内昇 『化物蝋燭』 ~人の心の寂しさを掬い上げ、その運命、嘆き、願いが物の怪となって繋がる、各一作が重い、見事な短編集です。

 暑い、ですが、私は、一昨年から、避暑に行くのをやめています。
 行き帰りが暑くてしんどいし、荷物をまとめるのも億劫ですし、何よりも、やはり、家のほうが余程広くて、食事も都会のほうが便利です。本も沢山あるし、パソコン機材も周囲にあることも大きい。ま、実際は、もう、歳なのかもしれませんが。

 そう言う、都会生活のわけで、昨日は、中目黒のヘアー・サロンに行くと言う、お盆休みをとらない息子と、終わったら落ち合うということで、昼に、目黒・雅叙園の中華料理店「旬遊紀(しゅんゆうき)」で、妻共々、フル・コースを味わいました。

 久しぶりに、ブルックス・ブラザースの半袖シャツに麻のスーツ。それに、ストローハットにサングラスと、都会風に洒落込みました。
 3時間近く、たっぷり食べましたが、中華料理は医食同源なのか、行き帰りに汗をかいたせいか、はたまた、夕食をとらなかったせいか、1kg弱体重が減っていました。

 さて、本題です。
 前回の「渦」に続いて・・その「渦」のブログは、力を込めた割には、お盆のせいか、しばらく置いていても《視聴率》が伸びませんでしたが・・、今回も、良作に当たり、読書の楽しみを満喫しました。
 その作品は、

木内昇 『化物蝋燭(ばけものろうそく)』(朝日新聞出版)

です。

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 木内昇(1967-)は、『よこまち余話』(2016)、『櫛挽道守』(2014)、『漂砂のうたう』(2011)で、いずれも、感銘を受けた、好きな作家です。本書は、本年7月末刊行の7編からなる短編集新刊で、すぐに入手しました。

 ゆっくりと、文章を味わえます。至極の読書のひとときと言えましょうか。

 まず、江戸弁(職人も、「わっち」と言ったのですねえ。)と江戸の地理市井の生活描写知らない言葉が印象に残ります。例えば・・、

「せっかく真猫(しんねこ)だったのにねえ、喧嘩別れでもしたのかえ」
《真猫》とは、気の合う男女の仲睦まじい語らいです。
 こう言う時、スマホは、すぐ調べられて良いですね。もう、スマホ無しじゃあ生活が不自由になります。

 若い女性の描き方も、例えば、色白の女性は・・、
「残雪を思わせる肌に切れ長の目 奥二重・・」、「白粉気がないのに淺瓜のように白く・・」、「顔の輪郭を見失うほどの色白」という感じです。
 体がほっそりと、病気がちのことを「蒲柳(ほりゅう)の質(しつ)」と言うことや、いろいろな言葉を知りました。メモしておくと良いですね。

 出てくる生業(なりわい)も・・、
羅宇屋」(らおや。煙管の掃除をする。煙管の雁首と吸口の中間の竹管部分を〈羅宇〉と言います。)や、「早桶屋」(埋葬用の桶を急いで作ります。)や、本書の表題『化物蝋燭』に出て来る「影絵師」、果ては、「提重」(さげじゅう。重箱に菓子や鮨をつめてお屋敷や寺社を廻る商売女。実は、私娼)などです。提重は、新しく知りました。

 そう言えば・・この様な題名の小説がありますが・・、「付喪神(つくもがみ)」。
 主人の為に一生懸命働いて来た道具が、古くなったといって簡単に捨てられたときに取り付く霊です。《終活》も良いですが、呉々もお気を付けになって。冗談です。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)


 表題になっている作品「化物蝋燭」は、真面目で、仕事の腕が確かながら、初代の菓子屋の二代目を継げず、分店を出すことを言いつけられた二代目の息子と、昔から初代主人に遣え、二代目に同情的な番頭から頼まれて、初代の後を継いだ、職人を、それが幽霊に弱いことから、影絵で脅かして追い出すことを頼まれた影絵屋の顛末です。
 しかし、そこには、それぞれの人情と愛情がありました。心地よく、成るほど店を継がせるには、そういう難しさがあっったか・・と感じ入る物語です。

 実は、本書、何が書かれた本か、よくわからず購入し、最初に読んだ、冒頭の「隣の小平次」が、途中まで、書名の如く、怪談じみた物語で・・、この後、宮部みゆきの「三島屋変調百物語」最終5巻(『あやかし草子』)を読む予定なのに、同系列になってしまったかな、・・と思いつつ読んだのですが、そうではありませんでした。
 「隣の小平太」は、武士の世の不条理さ、つらさ・・よく、青山文平が書いていますね・・と、江戸の人情が描かれたお話でした。
 特に、裏長屋の生活が、良く描かれています。まさに、短編の名作と言った感じです。

 化物(ばけもの)、ではありませんが、母を世話する為に、22年奉公して、番頭格に出世した店を辞める送別宴会の夜に、火事で死んだ主人公が、あの世に行くまでの一時、周囲を回想する夢幻風な物語は、「蛼橋(こおろぎばし)」。これは、少し辛い物語です。
 こおろぎは、〈行路危〉由来でしょうか。
 似たような、「お柄杓(ひしゃく)」は、豆腐屋の、柄杓と渾名のある、仕事の出来るお由の経験する、ややあやかしの転生物語。

 「幼馴染み」。姉妹のように仲良く育った、おのぶとお咲。おのぶが庇うようにお咲の面倒を見て、やがて、奉公先まで同じところにします。
 しかし、やがて、お咲の奇怪な振る舞いが出て来る、危険な人間関係。ある意味で、妖怪が出ない人間だけの本作が、ミステリーじみた気味悪さが残ります。

 「秀でた者が、能なしの餌食になる」(297頁)ことが絡むのは、最後の「夜番」も同じです。ただ、こちらは、最終話らしく、清々しい結末になっています。

 その最終話の一つ前が、「むらさき」で、絵描きの想いを抒情的に描いて感動します。

 猛暑の中、・・繰り返しますが・・「渦」に続いて、ゆっくりと、良い小説を味わいました。

 さて、次は、
宮部みゆき『あやかし草子ー三島屋変調百物語五之続』(第5巻)
です。凄いんです、ぶ厚さが・・。
 暑いですし、時間をかけて、マイペースで読んで行きます。膨大な頁ですが、知り合いに会う懐かしさがあります。

 猛暑の中、皆様ご自愛ください。
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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