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今村夏子 『父と私の桜尾通り商店街』 ~ざらついた現代にピタリの作風。心の奥底の重いこだわりや呻吟を汲み出すような物語です。ややグレーの美しい活字の頁に反して、内容は、気色(きしょく)悪い !? ところもあります。

 余談ですが、『本の旅人』(角川書店。月100円)の「休刊」通知が来ました。休刊、と言っても、事実上は廃刊のようです。
同書は、新潮社の『波』と共に、毎月、上質な内容でしたのに、残念です。

 巻頭に、編集長の「休刊によせて」という一文がありますが、感傷的な大学時代の思い出よりも、マスコミ人として、紙媒体の同書が「休刊」に至った理由、経営状況など数字をあげて問題提起してほしかった。
 また、連載中の幾つかは、創刊する、電子媒体の『カドブンノベル』に引き継ぐようですが、それがどういうものか、全く情報も無いのは、いささか不手際ではありませんか。

 さて、今日の本は、6つの小品からなる短編集 (2019年2月刊行)です。
 表題から、てっきり、微笑ましい短編集だと思いましたが、意外に、重い作品集でした。
 いわば・・勝手に期待しただけですが・・寿司を食べに行ったら、ラーメンが出て来た感じでもあります。

今村夏子 『父と私の桜尾通り商店街』(角川書店)

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 著者(1980-)のインタビュー(2019年2月28日)をネットで読むと、太宰賞(2010)受賞後、芥川賞の候補(「あひる」)にもなったベテランながら、・・謙遜かもしれませんが・・「もう書くことがないと完全に諦めていた」が、文学ムック編集長に、「自分の楽しみのためだけに書いてください。」、と言われたことで気持ちが動いて書いた作品ばかりとのことです。
(因みに、太宰治賞(2010・デビュー作「あたらしい娘」)の翌年には、三島由紀夫賞(2011「こちらあみ子」)。それから、確かに、随分立って、2017年に野間文学新人賞・芥川賞候補(「星の子」)を受賞と、ブランクがあります。最新作は、「むらさきのスカートの女」(朝日新聞出版))

 いわば、書くことが無くなって、呻吟して書くと、人の奥底の苦しみを汲み出してしまうものなのでしょうか。
 あるいは、「楽しみ」に書いたとなれば、もともとの作風、傾向、本質がこの本のようなものなのでしょうか。
 ネットで確かめると、この作風が受けているようです。これらを知って読まないと、ちょっと「失敗」(!?)します。

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 本書の短編6つ目、最後の、表題の短編『父と私の桜尾通り商店街』は、惨めに過ごした商店街のパン屋を閉じる段になって、事もあろうに、新しいパン屋を始めようと〈偵察〉に来た女性と邂逅したことによって、それまでのくびきや父の桎梏からテイクオフした女性を描きます。
 ちょっと、常識からは考えられない行動がありますが、呻吟した心の奥底のこだわりをはき出したような、重いけれども、清々しい物語です。

 冒頭の短編、「白いセーター」は、「伸樹さん」から、前年のクリスマスにプレゼントされた白いセーターですが、お好み焼き屋に、着ていくのは、匂いがつくし、ソースで汚すかもしれないと躊躇っていたもの。

 楽しい夜になるはずだった、クリスマスイブに、同棲している「伸樹さん」と夜に、お好み焼きを食べに行く約束をした。ところが、その午前中に、急に、その伸樹さんの姉の子どもの子守を頼まれ、そこで起きた、ささいな出来事。

 好きな人と一緒になれば、おのずとその家族との付き合いが付いてくるし、人生、こんな些細な苦さは何度もある。そんな心の奥底の重苦しさを、ちょっとした出来事で、繊細に描いています。その後、二人の関係は、文章から判然としません。

 以上の2作以外は、好き嫌いが分かれるでしょう。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 2話目、「ルルちゃん」(ネットで調べたら、そういう人形、売っているんですね)。
 この章にも、やや変人とおぼしき「安田さん」が出てきます。一寸したきっかけで知り合った人このは、やはり心の奥底に何か重いこだわりを抱えているようです。
 主人公は、派遣で生計をたてている若い女性。ヴェトナム人の同僚もいます。家族は、バラバラ。
 主人公が、〈ルルちゃん〉をどのように手に入れたのかは不明です。主人公にも、心にこだわりを持っています。

 3話目。やや気色悪い(気味悪い、というのと少しニュアンスが違うんです。)小説。ホームレスの女が、蝉を割り箸に刺して焼いて食べるところなどは特に。「ひょうたんの精」。
 デブの女の子が、腹に住みついた七福神のおかげで、スタイル抜群のチアリーダーで活躍した、不思議な話です。ちょっと、趣味が良くないかも。

 4話目。「せとのママの誕生日」。寂れて廃墟になったスナックに、昔勤めていた3人が、孤独死寸前の〈ママ〉を誕生祝いに訪ねて、寝ている(多分、死んではいなそう)そばで、飲み、昔話に花を咲かせる。昔話は、スナックで売りにしていた、デベソとか、乳首を切ったとか・・そのような話で、あまり、気持ち良い話ではありません。

 5話目、「モグラハウスの扉」。
〈モグラハウス〉とは、主人公が小学生の頃、道路工事で造っていた、マンホールの入り口です。そこで友人達と、はては、学童保育クラブの先生とワイワイ話している描写は、可愛いらしい。

 大人になって、その学童の先生と再会して、大雨の日、二人で何も捨ててマンホールから溢れた水の行き先であろう〈海〉めざして、走り去ります。
 先生は、心の奥底に鬱屈したものがあるのでしょう。主人公も、上手くいかない勤務先の鬱屈があるのでしょう。
 捨て去ってしまうのが、上手く行かない職場というのは兎も角、病気の父親というのは、介護疲れでしょうか。先生がふいに発する奇声が気色悪い。
 物語としては、良くある話、現代からの逃避行ですが、構成に賛否あるでしょう。

 好き嫌いが分かれるとか、賛否あるとか、奥歯に物が挟まった言い方ですが、著者の工夫しようとしているのは、理解できないこともありませんが、私は、この本は気に入りませんでした。改めて、ざらついた現代社会の中に身を置くようで・・・。

 今日は、やや批判的な文章なので、5稿まで推敲を重ねました。★
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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