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青山文平 『跳ぶ男』 ~私の、「観能」回帰への意欲を起こさせた、魅力ある能描写が満載です。

 いきなり余談ですが、近時、私は、舞台を観る回数が少なくなりました。
それは・・、
オペラ」は、有名演目の、安易な繰り返しの、惰性的な演目が多く、
文楽」は、日に3部制公演もある、(よりどり)〈みどり〉狂言(仕込みが無くて、いきなり山場の、戯曲を無視した公演)が多く、また、名人の多くが亡くなっています。
「国立劇場・歌舞伎」は、改革臭のペダントリーに一般受けを混ぜた中途半端な新台本が多く、
歌舞伎座」は、まるで観光地のようであまり好きではありません。

・・そして、実は、一番最初に去ったのは、「」でした。
 観能は、いつも、流派の五番立ての定期能でしたが、〈首本党〉(舞台を見ないで、手元の謡本を見ながら首を動かしている。中には、三色ボールペンを使っている人も。)が多い雰囲気で、疑問を感じて行かなくなりました。
・・しかし、本書を読んだら、番組と会場を選んで、能に回帰しようかな、という気がしてきました。何よりも、古典を読むようにもなるからです。
 
 と言うことで、その新刊は、

青山文平 『跳ぶ男』(文藝春秋)

です。

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 江戸時代は、家を継ぐ、ことが一番重要でした。
 ところが、この物語の、藤戸藩(二万二千石)では、16代藩主・武井甲斐守景通が、風病で、こともあろうに16歳で死んでしまいます。
 17歳から49歳までなら、〈急養子〉(急逝しても養子を立てられる制度)が認められていますから、手立て出来たのに、16歳ではどうしようもありません。

 藩は、台地しかない、貧しい藩で、土地が無くて、埋葬すらままならず、死者を海に通じる河に流しているほどです。

 そこで、目付・鵜飼又四郎は、かねてけから、こういう時のために、幕府に内密(公辺内分)の〈身代わり〉を考えていました。目を付けたのが、文武に優れ、武家の式楽(幕府の式典歌舞劇)である能にも長けた、岩船保です。
 又四郎は、先々代の能の名人で三年前に没した、14代文隣院景慶(かげよし)に能の手ほどきも受け、子方としての経験もあります。

 しかし、些細な諍いから、保は、切腹してしまいます。
 そこで、身代わりの身代わりになったのが、3歳下の、主人公・屋島剛(たける)です。

 道具役、戦の無い現在では、能の御手役者・屋島五郎の家に育ちましたが、実母・菊死後、後妻・仙が来て、6歳下の二男・正(まさし)が生まれてから、疎外されていた剛は、しかし、疎外されても、兄と慕った保と、密かに能の稽古を積んでいました。保の父も、道具役でした。
 稽古の場は、死者を河に流す河原(野墓)である野宮(のみや)にある、石舞台でした。石ですから、剛は、トビ安座をしていて大怪我をしたこともあります。

 さて、身代わりを受けた剛は、江戸に上ります。まずは、能に生きようと跳びます。
当時、武士の跡継ぎは、17歳までは、江戸に住むならいです。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 ところで、身代わりは、17歳までの7か月か、それ以降はどうするのか、続くのか、口封じにあうのか・・、そこが、ずっと気にかかります。
 また、随所に、保の心象風景が出て来ますが、やや難解のところもあります。

 江戸では、新たに御側御用取次兼御小納戸頭取となった鵜飼又四郎と、江戸留守居役・井波八右衛門が剛をバックアップします。
 剛が、能に堪能なのが役にたちます。
 大名能は、上様に認められるためにも、また、仲間内の情報収集の場としても頗る重要なのです。

 剛は、能で、めきめきと実力を発揮して、同じ城中柳の間に控える、豊後岡藩の中川修理大夫(だいぶ)久教を皮切りに、重役の集まりにも食い込み、ついには、江戸城の奥能「奥御手廻り御能」を取り仕切る、三輪藩・望月出雲守景清(34歳)とも見知りになります。

 ここで、本書は、たっぷり能についての描写が続きます。不調法な読者には、辛いところ。
 で、ご参考に、

井上由理子『能にアクセス』(淡交社)
山崎有一朗『能・狂言なんでも質問箱』(檜書店)

をお薦めします。
 構エから、運ビ、クリ、サシ、クセ・・一声、舞事、主だったところは、写真付きで説明されています。

 最後、17歳になった時に、剛は、自ら大きな決断をして、藩を救う手立てを講じます
この凜々しく、潔いクライマックス数頁は、ここでは書かないことにします。

 兎も角、重厚な構想のドラマです。
 しかも、観能のポイントが詳しく説明されます。これが、並の解説書よりも良く書かれているんです。
 解説されるのは、「関寺小町」(老いを超えてなお残る美)から、
「石橋」、「養老」(これは、小書付きです。作意を嫌い、技で無く軸が求められます)、「高砂」、「弓八幡」、「隅田川」、「羽衣」、「井筒」、「野宮」、「東北」(和泉式部の和歌が、得と語られます)、「俊寛」、「船弁慶」、「百萬」、「」、「道成寺」、「猩猩(しょうじょう)」です。
 これが、頗る有益ですが、能が初めての方は、投げ出したくなるかも知れません。

 また、江戸城での将軍御目見得の実態や、控え室の状況、式能の実態や、付き合いの「要る話、要らない話」は、勤め人に役立ちます。「要らない話を集めておかないとイザという時役に立たない」など、なるほど。

 最初に述べたように、私は、また、能楽堂に通おうかと思い直しました。★
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Re: 面白いですよ~

 この本、半分以上は、能の記述ですので、知っている方は、ピンと来てすこぶる楽しめると思います。
 ちょっと、観劇、観能の憎まれ口をきいてしまいましたが、改めて、国立能楽堂に行こうかと真剣に思っています。
 これからもよろしくお願いいたします。

え、この本読んでみようかしらん。面白そう!
最近は私は流儀の定期能にはあまり行っていません。
国立の定期能と、そこで見つけた良い演者の個人の会が主ですねえ。
で、そこで出会ったりSNSを介してであった能友たちとワキ謡を習い始めました。
ワキなら、発表会が無いので(主眼はお稽古の後の飲み会だったりして)。
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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