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村上隆『芸術闘争論』 ~〈アーティスト〉を目指す若手に、熱っぽく、手の内を見せて語る、ビジネス教科書のような〈起業指導書〉。鑑賞者も、現代美術がわかるような気になり、かつ、業界〈密室〉内情が実に面白い。

 この書物が刊行されたのが、2010年。以来、どの程度、影響があったのでしょうか。
 兎も角、面白いのが、

村上隆『芸術闘争論』(幻冬舎)

です。

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 著者・村上隆(たかし。1962-)は、現代美術家。東京藝大(日本画)・大学院卒。画廊を3か所(1つは台湾)所有しています。

 大学では、日本画専攻で、辻惟雄「奇想の系譜」に扱われる岩佐又兵衛ら6人の画家の画面構成や、アニメーター金田伊功(よしのり)など作画手法の影響も受けているとのことで、今、東京都美術館で開催中の展覧会にも、若干、繋がります。
 それに、最後に述べる〈スパーフラット〉という建築概念が、やはり今開催中の、埼玉県立近代美術館の企画展に繋がります。
 このように、多くの連鎖に気づき、解ってくると、展覧会に行っても、面白いですね。

 さて、本書・・、
 これから、世に出ようとする、若いアーティストに向けた、熱く、本音、裏話など全てさらけ出したような書物です。
 読み出したら、面白くて、止められず、2日で読了してしまいました。
 それでも、途中で、参考書に、
『現代アート事典』(美術出版社)
を座右に置きました。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 まずは、「今日のアート」で、
さっと、絵画の歴史や、日本・米英、オイル・マネーさらには中国美術界の状況、地政学が述べられます。
 今の意味で〈アート〉という語は、1980年代から使われたようで、その前は、〈現代美術〉で、さらに、1960年半ば以前は、〈前衛芸術〉と言われたようです。

 ここから、〈貧=芸術=正義〉概念の批判が頭出しします。

 早速、お金の話が出てくるのが、面白くて、素人には、頁を閉じられなくなる由縁でしょうか。
 例えば、作者の作品「ヒロポン」(1997年)が、180万円で画商を通して売られ、買い手が手放したセカンダリーの、つまり、再販売のオープン・マーケットであるオークションで付いた値が5,800万円だった、とかの話あります。(それって、自慢 ? )

 だから、英国のダミアン・ハースト(1965-)は、第一次取引(プライマリー・マケット)をサザビーズのワンマン・オークションにする試みをした【223点、210億の収入】とか(ここで、オークション会社の取り分は、30%くらいとダミアンは、見込みました。)。

 因みに、一般的に、画商の取り分は、約50%、百貨店では70%前後だそうですが、画商は、結構、いろいろ費用がかかる(準備・開催費用、プレス活動などの広報・交際費用、税務処理・契約など法務処理、翻訳やアーティストの面倒見)ので、近時は、権利で稼ぐことも考えて、エージェントが入って3等分にする、と言う話は「未来編」のところで語られます。

 そして、その次には、「鑑賞編」で、
 鑑賞の4要素は、これは、もう作品自体の要素の話になってしまっていますが、「構図、圧力、コンテクスト、個性」です。視線の誘導もあります。

 「コンテクスト」とは、〈文脈〉。作品は、その〈重層化〉が重要視されます。ハイ・コンテクストを作品に盛り込むことが重要です。例えば、〈死〉、〈エロス〉、〈時事ネタ〉など。
圧力」とは、人生がかかっているか、ということ。
個性」で注意すべきは、繰り返し述べられますが、〈ART=自由〉と思わないこと。内向的、私小説的な発想は、ダメです。

 そこでは、ルドルフ・スティンゲル、マーク・グロッチャンの作品、それに、自作(「©MURAKAMI」「ズザザザザザ」など)を使って詳述されますが、今ひとつ、4要素の理解が難しいのですが、何となく、わかったような、わからないような・・・。でも、面白い。美術関係者には、わかるんでしょうね。

 このブログでも取り上げた、マルセル・デュシャンの「泉」(便器の作品)作品なども取り上げられます。バート・ニューマンやアンディ・ウォーホール(1928-1987)も登場します。

 そして、いよいよ「実作編」です。
 前述の、「構図、圧力、コンテクスト、個性」を盛り込むことです。さらには、特に、米国では、「大きさが大事」と述べられます。買い手が大金持ちで、邸宅が大きいから。

 ここでは、自作「私は知らない。私は知っている。」(2010)で、14頁にわたる写真を元に、製作過程が詳細に説明されています。工房、で多くの人を使って、2~3人が24時間体制で製作します。
 コンテクストは、死。構図は、四角のフレームの中にできる限り大きなスケール感を出すことです。

 さらには、「Flowers In Heaven 2010」でも、6頁にわたる絵で解説があります。
「727」でも、12頁にわたって進行プランが解説されます。

 なにか、わかるような気がしてきます。
 今日の日本の美術大学教育の欠陥、芸術予備校教育(すいどーばた美術学院、新宿美術学院、お茶の水美術学院、代々木ゼミナール造形学校、河合塾美術研究所、立川美術学院など)の特色・功罪などが、率直に、再三、語られます。

 「未来編」では、
いよいよ、ギャラリーデビュー、さらにA級アーティストになる心構えです。
 プロになるとは、商業・ギャラリーでの取り扱い作家になることです。
 歴史に残るハイ・アートにするためには、その〈ルール〉、欧米が発明した、一種のOSを覚えなければならない。自由では自己満足に終わることを再三主張します。

 最後、ギャラリー、画商の選び方、に可なり頁がさかれます。興味深いところで、面白い。さらには、オープニングで注目を集める重要性も。
 日本の大学に期待できないのなら海外は、学歴は必要か、年齢と芸術家、といった疑問にも答えています。

 著者自身が、「あとがき」で、秘伝のタレを公開した、と言う如く、素人が知らない美術界の状況が語られていて、これを読むだけでも面白い。さすが、「幻冬舎」出版です。

 まるで、現代美術作品が、ビジネス作品のように思えてしまいますが、考えれば、映画だって、アニメだって、コンテクストに基づき、収入や後援者を計算して作られていますものね。
 そこにいくと、「ブログ」って楽ですねえ。
 ま、ベテランの専門家からは、反論が大いにあるでしょうが、それはどのような書物でも同じ。まずは、この書で、美術館に行くのがますます楽しくなりました。

 今日、再び、埼玉県立近代美術館(MOMAS)に行って、企画展「インポッシブル・アーキテクチャー」を観て来ました。村上作品にも使われた〈スーパー・フラット〉という建築概念もありますので、これも繋がります。面白かった。このお話は、後日に・・★
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Re: もう行かれたのですね。

 多分、2週間程前の「朝日新聞」の読書欄の小さなコラムです。私も、それを見て買いました。東京都美術館、もう行かれたのですね。私は、今月末に、連れ合いがシルバー割引の対象になるので、それから行こうと、しみったれたことを考えています。

この「芸術闘争論」最近何かに取り上げられて、昨日購入しました。まだ読む順番が来ませんが、ブログ拝見して読むのが楽しみになりました。
都美、意外に混んでいましたね。
プロフィール

感動人

Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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