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小崎哲哉『現代アートとは何か』 ~現代アートの問題領域をほとんど網羅した労作です。現代アート〈業界〉のゴシップと、現代アートに向き合う〈理論〉を詳述して、現代アートへの〈取っつきにくさ〉を解消できます。

 たまには、物語の世界から、現(うつつ)に戻った読書をしました。
 以前、現代アートについて書かれた、原田マハ×高橋瑞木の、『すべてのドアは入口である』(祥伝社)を読んでいて、多少、現代アートの《固有名詞》が頭に入っていたので、本書も抵抗なく読み進められました。
 しかし、本書は、現代アートの問題領域をほとんど網羅した労作です。 

小崎哲哉 『現代アートとは何か』(河出書房新社)

ウエブマガジン「ニューズウイーク 日本語版」に連載されたものです。読み易いが、内容が濃いので、読了に、やや根気が必要です。
 余談ですが、webなどの、この本の批評などの中には、「全部読んだの ?」と思ってしまうものもあります。

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 現代アート(もう、美しいもの、「美術」、とは言えません。アートと言います。)は、どうも取っつきにくい。

 それは、本書前半で述べられるような・・、
・アートワールド(芸術理論の状況やアート史の知識)やその〈業界〉の現状の情報がないこと、
・現代アートに関する報道、批評などが貧困である(したがって、現代アート鑑賞の世界標準である、「作品が美術史的にどの文脈に位置づけられるか」を知ることが出来ない)こと、
・そして、何よりも、現代アートとの〈対話〉の仕方が分からない、こと、
に大きな原因がありそうです。

 本書は、その3つを、細かく述べた、格好の現代アート入門書であり、評論集でもあります。

 まずは、ヴェネツア・ビエンナーレの《紅白歌合戦性》から入って、現代のアート・マーケットのスーパー・コレクター、フランスの大富豪、フランソワ・ピノーについて語られます。
 グッチ、サンローラン、プーマ、ボッテガ、ヴェネタ・・などファッション・コングロマリットの所有者です。
驚くべきは、オークションハウス(競売会社)のクリスティーズや2つの美術館も持っています。

 次は、これもフランスの大富豪、ベルナール・アルノー。ルイヴィトン、ディオール、セリーヌ、ジバンシー、フェンディ、ケンゾー・・、さらには、洋酒のヘネシー、ドン・ペリニヨン・・、それにルイヴィトン財団の美術館も所有したいます。

 さらには、カタール王女、マヤッサ。アル・ジャジーラを開局したり、ルーブルやグッゲンハイム美術館分館のほか、さらに、世界屈指のミュージアムを建設したり、200億円でセザンヌを買ったり、360億円でゴーギャンを買ったりしています。

 大富豪ギャラリスト(ギャラリー所有者でディーラー〈販売者〉も兼ねる)の、「帝王」ラリー・ガゴシアンは、世界に15のギャラリーを所有しています。

 ・・このような、スーパー・コレクターのアート世界席巻の現実を、〈ゴシップ〉的に詳述して、まずは、読者を、現代アートの世界に導き ? ます。

 これでは、一般コレクターは、多くのスーパー・コレクターに太刀打ちできません。
 太刀打ちできないのは、多くの一般の美術館でもそうです。ただ、これは、後半に述べられますが、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、テートギャラリー、ポンピドー美術館など名のあるところでは、《紅白歌合戦的効果》があるので、30%ディスカウントで買えるのだとか。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 このような現状は、我が国では、あまり知識として普及して来ません。
 そこで、本書は、現代アートに関する情報や批評の貧困に付いてふれます。

 同時に、各国の美術館の《自己規制》、権力への《忖度》問題なども、キュレーターなどの実名を出して、豊富に語られます。我が国の例は、上野の東京都美術館や原発問題テーマへの内閣関係者からの〈電話〉。

 コレクターの私設美術館で作品を《私蔵》(プライベート・コレクション)して、一般公開しない、限定する問題もあります。グレンストーンやブラント財団研究センター(「美術館」表示すらしていません。)、韓国サムスングループのかつてのリウム・・などです。

 いよいよ、本書の後半は、現代アートの見方になります。
 見方、と言うよりも、アートからの〈問いかけ〉に、想像力を駆使して能動的に、その問いを、推測して、アートを《完成》していく方法です。

 問いかけを「推測する」とは、千利休の茶室や茶道具の例が面白く理解できます。
招かれた茶人は、主のさまざまな趣向を理解する必要があります。

 その前提に、3つの前提、インパクトコンセプトレイヤーがあります。

 インパクトは感覚的なもの、コンセプトは主張、メッセージで、例えば「制度批判」といったもの、レイヤーは理解を深める補助線のような、脇筋のようなものです。

 これを、マルセル・デュシャンの作品、『』(1913)などを例にして話が進みます。
 この作品は、例の、ホームメードの小便器に「R.MUTT」とサインした作品で、因みに、同作品は、2004年「最も強い影響力を持った20世紀のアート作品」で、第1位(64%)を得ています。
 第2位は、ピカソ「アヴィニオンの娘たち」(42%)、第3位は、アンディー・ウオーホル「マリリン・ディプティク」(29%)、第4位、ピカソ「ゲルニカ」(19%)です。

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 ある意味、今日の芸術家は、レディメード、つまり、既製品を選んで(選択し)、比較・判断し、結合し、特定のコンテクストに入れて、ほかのものを除外して、それを芸術と命名するのです。観衆は、それを再び判断し、命名し、芸術家は、観客を我が物とします。

 このうえに、作家の動機の推測のための、7つの動機が提示されます。
(勿論、これは、図式的なもので、各動機は、完全分離している訳では無く、ピザの具のように混ざり合っているものもあります。)

1 新しい視覚・感覚(感覚的なインパクトの有無です)、
2 メディウムと知覚の探求(メディウムとは、媒体のことで、複数形になるとメディアです。ペインティング、ドローイング、立体、写真、映像などアート表現のジャンルのこと。その可能性を「探求」します。)、
3 制度(アート制度)への言及・異議(従って、作者は、アート史を学ぶ必要があります。)、
4 アクチュアリティと政治(戦争、テロ、暴力、差別、貧困、いじめ・・を俎上に乗せます。)、
5 思想・哲学・世界認識(世界のとらえ方の動機とも言えます)、
6 私と世界・記憶・歴史・共同体(私小説文学のように、個人、育った家、環境、人種差別などを作品に入れる動機です。)、
7 エロス・タナトス・聖体
です。

 例えば、6私と世界、の〈個人史〉からの動機では、草間彌生の、遊び人であった信州の父への嫌悪感や「男根コンプレックス」(多くの水玉は、切り取られたペニスの断面か)が例示され、性、生から、無限、永遠という動機を解釈します。

 最後に、アートを鑑賞するときに、7つの動機を数値化し、「評価表」にして、レーダーチャート(蜘蛛の巣グラフ)にしてみる試みです。
 
 当初、ゴシップ話に感心しているうちに、現代アートに入っていく気概が生まれました。お薦めの良書です。
 これからは、積極的に、現代美術の展覧会に足を運ぼうと考えています。

 最後に・・、本書でも、多くの頁が割かれている、現代アートに大きな影響を与えた、サミエル・ベケットの作品を、特に、「モロイ」、「マロウンは死ぬ」、「名づけえぬもの」とその執筆中の〈気散じ〉に描かれた戯曲「ゴドーを待ちながら」を、遅まきながら、精読して行きたいと思っています。★

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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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