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梓澤要『遊部(あそべ)』上、下 ~今夏、最高の読書だった、と言って良いでしょう。内容の濃い、稠密な、読み応え満点の歴史大作です。

 上・下、730頁の大作です。
 このところ読んだ、「平城京」、「火定」、「白村江」、「蘇我の娘の古事記」などの知識も基礎知識として役立ちました。
 本書は、一つの事象が出ると、まるで、〈そもそも・・〉と語られる如く、これ一冊で、古代、中世の歴史・伝承のポイントが身に付く思いです。
 読んだのは、

梓澤要『遊部(あそべ)』上、下 (講談社)

です。

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 私は、この著者・梓澤要(1953-)の、
「荒法師運慶」(2016)を昨年7月に、「画狂其一」(2017)を今年2月に、「万葉恋づくし」(2017)を今年3月に・・と、随分読んでいます。作者は、女性で(本名・永田道子)、2017年大河ドラマ「井伊直虎」も書いています。

 著者は、1993年に小説デビューしていますから、2000年の本作品は、比較的〈初期〉の作品で、それだけに、力が入り、調べ尽くしたことから広大な発想をしていて、その後、2007年から大学院で仏教学を学び、現在に繋がっているようです。

 本書を読もう、読もうと思って先送りしていましたが、たまさか、地域の「古書市」で、読まれた形跡のない美本が、500円/2冊(本来は、1,900円/1冊)で出ていましたので、大部ながら、思い切って読み始めたのですが、〈当たり〉でした。

 さて、《遊部》(あそべ)とは、天照大神(あまてらすおおみかみ)の魂を蘇らせた天宇受売命(あめのうずめのみこと)、または、大君が崩じたときに儀式を司っていた伊賀比自支和気(ひじきのわけ)が祖で、大君の御霊を安んじる役目と、東大寺正倉院の警護・清掃を司るのが役目の奴婢一族で、東大寺北東の隠れ村・寺ヶ谷(てらがやつ)に、隠れ住んでいます。

 つまり、元々は、天皇の殯(もがり)の儀式を司る人々でしたが、仏教伝来以後、死が穢れ、とされるに及んで、役割が抑圧・差別され、正倉院の警護・清掃の奴婢を表の顔として生き残ってきました。

 本書では、永禄10(1567)年の三好・松永の戦での東大寺・大仏炎上から、織田、豊臣政権の約10年間の期間、その中で、特に、織田信長によって正倉院から切り取り持ち出された「蘭奢待(らんじゃたい。黄熟香とも言い、一種の香木)」を取り戻そうとする、7人の遊部の男たちの物語です。
 取り戻さなければ、盗品を見た者が、同じことを考えるかもしれないので、表に出る前に取り戻すことは、絶対必須なのです。

 因みに、「蘭奢待」の字には、「」に「東」、「」に「大」、「」に「寺」と、「東大寺」の字が隠されています。

 7人は、さらに、単に、蘭奢待を取り戻すだけでは無くて、二度と、盗むようなことが起こらないように、全国を巡って、「正倉院御物を盗むと仏罰が7代祟る」、と言いふらし、世論操作すこともしました(下、130頁以降)。

 この全国を巡る口実に、「稚児踊り」を隠れ蓑にしました。
 全国を回っている設定に加わっているのが、阿国(おくに)、阿菊の遊部の女たち(いわゆる《出雲の阿国》)です。
 当時、出身を聞かれても、出雲や、伊勢や、その地はいい加減なものでした。
 ところで、阿国は、だんだんと踊りで名を成して行き、一方、阿菊は、遊部のシキョウ【後述】を継いで、御依代になります。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 物語では、逆に、正倉院御物(特に、茶道具)に目を付けて、浪人を使って盗もうとする者がいます。
 堺の豪商で、茶人の、天王寺屋主人・津田宗及(津田助五郎)です。
その妾には、おあむ(最後に分かりますが、宣教師とのハーフで、自らもキリシタンに帰依しています。)がいます。

 宗及のライバルは、千宗易(のち、千利休)、今井宗久らで、茶を手段に商売で、暗闘を繰り広げます。宗及が、正倉院の宝物を欲しがっているのは、珍しい茶道具を秀吉らに自慢、献上して、商売を拡大したいからです。

 雇われる浪人は、村上新左衛門新左。しんざ)で、この新左衛門は、信長に敗れて死んだ、三好家を裏切った家臣・松永弾正久秀の生き残りの家臣です。
 「東大寺大仏を燃やしたから祟られた」と言いふらす遊部一族を恨んでおり、一族の殺害を狙っています。
 余談ですが、宗及の妾・おあむ、を横取りして、海外逃亡を狙っています。

 その新左衛門を、裏で援助しているのが、二上山の万法蔵院跡に住む、「破邪王(はじゃおう)」の一統です。
 しかし、実は、最後、この一統は、遊座と同じ系統で、遊座はネギ(因みに、「禰宜」(ネギ)に連なります。)、破邪王一統はヨヒと分かり、斬り合いを止めて、和解します。
 で、クライマックスで、新左のほうは、斬り合いを止めたヨヒの仲間を無くしてもなお、遊部に斬りかかろうとし、止める、あおむを勢い余って、斬り殺してしまいます。

 先に戻りますが、遊部を裏で守護しているのが、薬師院院主・実祐(じつゆう。59歳)です。
 それに、正親町親王(おうぎまちしんのう)に連なる、行空(ぎょうくう)です。
 織田信長に滅ぼされた斉藤家家臣の娘・お通(つう。15歳)を、つまり、逃れて、誠仁(さねひと)親王の女御・勧修寺晴子に仕えた母の娘を、匿っています。
 因みに、やがて、お通は、織田信忠(信長の嫡男)と、壁絵が元で知り合い、好き合います。が、勿論、信忠は、本能寺の変の折り、死にます。

 さて、最初にもどって、遊部の男7人です・・・、

・頭目は、アマイヌ(天犬)。獅子を意味します。
アカツギ(尾被)。日に20里走れ、木から木にサビのように移れます。
ハエン(巴猿)。実直そうな40歳位ですが、元は百姓の倅で、12歳の頃から三好軍兵として雇われました。宗及の店に、〈弥助〉と偽って約10年入り込みます。
トウメ(妻女)。30歳位で、情報を操るのが得意です。金春座や念仏踊りの経験もあります。
・秘儀を司どる祭主・ソキョウ。生まれながらの盲目で、フクロウの異名があり、策略に長けています。
スガル。大仏炎上の戦の日に産み落とされた孤児です。身軽ですが、とびきり美しい若い牝鹿のような少年。村井長門守貞勝に《衆道》として狙われます。
オト。スガルと同じ境遇の孤児です。

 なお、阿国らと共に諸国をめぐるのは、オト、スガル、トウメ(座頭)、アカツギらです。
 これら7人が、織田信長が、正倉院を開けさせて(本来なら、勅封蔵を破る大罪です)、蘭奢待(らんじゃたい)を手に入れ、爪の大きさほどにして分け与えたものを奪還するのが物語の前半です。

 奪還は、例えば、1つ目の、信長から京都所司代・村井長門守貞勝(春長軒)が賜り、さらに、関小十郎右衛門長安が賜って尾張一宮・真清田(ますだ)神社に奉納された蘭奢待は、容易に奪取できましたが、大本の、信長の物は信長自死と共に消え、3つ目、村井貞勝の物は本能寺の変の夜に戻りますが、4つ目宗及の物は、最後の最後、10年先にやっと奪取できます。

 後半は、新左の襲撃で正倉院が攻撃され、新たに奪われた宝物を奪い返すのが主ストーリーとなります。新左らの攻撃から村と正倉院を守ることも重要です。

 大詰め・・。
あおむが死に、
新左に奪われて宗及に渡った正倉院宝物は、遊部に戻ります。
やがて宗及は、死にます。跡取りはありませんでした。
~「幕」となります。

 余韻です・・。
途中、遊部のシキョウは殺されています。多分、阿菊が跡を継ぎます。
ハエンは、今度は、スカウトされた、千利休の店に奉公するのでしょうか。
阿国は、出雲の阿国として、歌舞伎を広めるでしょう。
その阿国と結ばれるのは、オトでしょうか、スガルでしょうか、いずれでもないのでしょうか。
おあむを殺して一人になった新左は、遊部に復讐出来ずに終わりましたが、一人でボルネオに向かう船に乗るのでしょうか ?

 総じて物語は、蘭奢待と宝物を奪いかえすのが中心の物語ですが、途中に、あらゆる曰く因縁の物語が、詳細に語られます。

 例えば・・、
 三好と松永軍の戦と大仏炎上、
信長と足利義輝との政争、
信長とその子、信忠(のぶただ。物語では25歳)・信雄(のぶかつ)・信孝(のぶたか)、
信長の安宅船誇示、
明智日向守光秀の苦悶と謀反、
本能寺の変、
阿国踊り、
秀吉の大茶会・・

 勿論、遊部であるネギとヨヒ一族伝説の悲劇は、韓の息長(おきなが)氏の渡来、1000年前の天宇受売命や円目王(つぶらめおう)と妻・比自支和気(ひじきのわけ)の物語から、雄略天皇、生目天皇(垂仁天皇)、大津皇子まで・・・(下、主に176~178頁、212頁~)に至る・・、と言った具合。

 入念な筆法、それこそ、このネタで本が数冊書けそうなストーリーで、読み出満点。久しぶりに、ずしりと読んだ気がしました。
 今夏最高の読書と記憶出来るでしょう。★
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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