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リチャード・ルッソ 『ノーバディーズ・フール (上)(下)』 ~ 1980年代、米国の寂れた田舎町に生きる人々、約30人と犬1匹の、冬2か月ほどの心の動き、葛藤と、人生に対する歎息を緻密だが軽妙に描いた大作です。心に染みいる名作でした。

 家居、つまり〈ステイ・ホーム〉のおり、買ったまま書棚に置いてあった本を順次読んだのですが、読み切れなかった最後の一冊をついに読み終えました。
 多分、1994年に映画を観て、1995年(出版年)に買った、

リチャード・ルッソ 『ノーバディーズ・フール (上・下)』(ベネッセ)

です。上下あわせて900頁を超えます。

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 ここ1週間は、本書に没入していました。
 余談ですが、私は、1995年に読んだ、米国の長編小説、
ロバート・マキャモン『少年時代 上・下』(文藝春秋)
に感動したのを覚えています(今でも、私の人生の「ベスト」に入る本です。)ので、あるいは、その流れで、この本も買っていたのかもしれません。
 本日の本は、小さな田舎町の約30人ほどの人生を描いていますが、先ほどの「少年時代」は、やはり小さな町の約160人の人生を描いていました。

 つまり、約25年前の本です。
 しかし、これは、若い頃でなくて、人生経験を積んだ、今、読んで良かった
 主な登場人物の歩んでいる人生、日々の考えや会話というものが、よく理解できるからです。

 それにしても、英米の作品は、翻訳でも、1頁ほとんど改行無く字がぎっしりです。
 それに、読んでいて気付いたのですが、英米の作家は、大学で、体系的に「ライティング」を習得するからなのか、高齢者や老いを描くのにも、実に周到なんです。それには、感心してしまいます。
 高齢問題だけで無く、この物語には、現代社会の問題、夫婦・親子関係、虐待、DV、差別、不倫、開発投資失敗などあらゆる問題が散りばめられて、人眼関係を結んでいます。読んでいて、頁が置けない由縁です。
 因みに、著者は、アリゾナ大学で、「創作著作」の文学修士号を取得しています。物語の構成が隅々まで周到なのが頷けます。

 「ノーバディーズ・フール (Nobody's Fool」とは、主人公サリーのことですが、〈決してバカではない人間〉(47頁)とか、〈自由人〉、〈一徹者〉・・とか訳せます。
 あるいは、小説の中で、自分の娘の経営するレストランの席に座って一日を過ごしている、90才の認知症の老婆ハティーが、サリーに対して言うように「ろくでなし(のサリー)」と言えるのかもしれません。

 しかし、その主人公サリーは、何となく皆が寄ってきて、鎧(よろい)を脱いでしまうような人物なのです。
 軽口を叩きながらも、心では、常に、人の気持ちを繊細に理解しています。それが表に出せるかどうかは別にして。
 ただし、幼い頃虐待を受けた父には、死んだ後も、根深い怨みを抱いています。これが、人生のトラウマの出発点なのかも知れません。

 映画「ノーバディーズ・フール」(ロバート・ベントン監督、ポ-ル・ニューマン、ブルース・ウィルス出演)の記憶は、全くないのですが、本を買ったくらいですから感動したのでしょう。
 先ほどの、サリー役は、私の好きなポール・ニューマンが演じていました。

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 物語は、1984年の感謝祭(11月末)から新年までの、ニューヨーク北部の、雪が降る、バースの街が舞台です。《バース》の名と裏腹に、温泉は枯れて、湯治場の面影はありません。
 大通りの街路の楡並木は、いつ家に折れて来て被害をもたらすかもわかりません。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)


 町の郊外に大テーマ・パーク「究極の楽園」建設の話が持ち上がりましたが、結局、沼地の地質、高速道路出入り口から遠いこと、そして、何よりもバースに住む人々に対する漠然とした不安・懸念を持たれて、(本書最後に、)この話は壊れます。
 そのバースの人々、外から見ると、「不安・懸念」を感じさせた人々の雰囲気を、虫眼鏡で見て行くような小説に思われました。

 テーマ・パークの誘致に努力したのが、56歳になる街の銀行頭取クライブ・ジュニア(Jr)で、名士です。

 Jrには、かつて小学校教員で、80歳になる、独り暮らしの母ミセス・ベリルがいて(ミセスと言っても、ベリルの夫クライブ・シニアは、25年前に事故死しています。)、その2階に、12年前から間借りしているのが、ミセス・ベリルの昔の教え子サリーです。
 サリーは、毎朝階下に降りてくると、
「眠っている間にぽっくりいったんじゃないかと思って」と、軽口をたたいてミセス・ベルリの様子を見てくれます。

 Jrは、サリーに出て行っていってもらいたいので、いつも母を説得しています。
 向かいに住んでいる、ベリルの友人、80歳のミセス-グルーパー(夫は、7年前に死にました。)を抱き込んで、ベリルの《情報》を得ています。
 結局、最後、サリーは年末までに出て行くことになりますが、悪いことばかりでは無く終わります。(25年前の小説ですから、ネタバラシします。)
 因みに、Jrには、50歳になるフィアンセ、ジョイス・フリーマンがいます。

 そのサリー、本名ドナルド・サリヴァンが主人公です。

 60歳になりますが、離婚ていて、1年前にハシゴから落ちて左足を怪我して、薬剤師ジョッコから試供品の痛み止めを融通してもらって、その薬で痛さを誤魔化して生活しています。
 サリーに、定職というほどのものは無く、建設作業やカール・ローバックのくれる賃仕事をしては、その金で、場外馬券売場に行っています。
 もっとも、賭けるのは決まって「1-2-3」という三連勝式の連番の馬券です。

 サリーの行動範囲は、ハンバーガー・居酒屋店「ザ・ホース」、食堂「ハーティーズ」、場外馬券売場、そして賃仕事をくれるカール・ローバックの事務所(もっとも、そこの美人の妻トビー・ローバックに会う楽しみもありますが。)です。

 何よりも、サリーは、子どもの頃虐待した父ビッグ・ジム・サリバンをずっと恨んでいます。4歳上の兄パトリックがいましたが、交通事故死しました。

 サリーは、夫ザックのいる、12歳下のルース(48歳)と不倫関係が続いています。

 ルースは、ピザ店やスーパー(IGA。やがて潰れます。)のレジ係2箇所で働いていて、最後、「ハーティーズ・ランチ」を、街を出ていくカサンドラ(キャス)から買います。
 キャスは、ずっと面倒を見ていた認知症の90歳になる母ハーティー(店のボックス席で、一日中、「死神と腕ずもうしているように」前屈みでいました」)が急死したので、コロラドのホールダーに帰るのです。
 やがて、最後に、ルースとは上手く行かなくなります。

 離婚した妻ヴィラは、ラルフと再婚し、この街に住んでいますが、近時、実父のロバート・ホールスイを老人施設に入れることから悩んで(ヴィラは、ファザコン気味です)、近頃、神経を病んでいます。

 サリーと別れた妻ヴィラとの間には、長男ピーターがいて、歴史の博士号を持って大学教授となっていますが、サリーは、ずっと面倒を見てこず、疎遠だったことを後悔しています。ピーターは、継父のラルフが可愛がって、育てたようなものでした。

 そのピーターは、妻シャーロットとの間に子どもが3人います。
 しかし、シャーロットと別れ話が出ていて、また、ピーターは、大学の終身在職権が貰えず、契約切れでクビになりそうで、おとなしい長男ウィルを連れて、この街に戻って来ています。
 長男だけを連れてきたのは、二男ワッカーが乱暴者で、ウィルを虐めて仕方ないからです。

 ある夜、ひょんなことからサリーとピーターが再会し、おかしな交流が始まります。サリーは、孫が気に入ったようでもあります。
 再会に関してのロマンティックな筋はありません。あっけなく二人は同じ行動を・・ピーターは、サリーの仕事を手伝うのです・・し出します。心の中では、複雑なものがありますし、性格も、職業も違いますが。

 サリーには、舎弟のような友人ラブ・スクワイアーズがいます。
 ラブは、サリーにホモっぽい感情を持っているようですがサリーに良いように振り回されます。ラブの妻エリザベス(通称・ブッツィー)は、気が強く、ラブを尻に敷いていますが、勤め先から品物を持ち出していたことが最後にバレます。

 サリーには、飲んだくれで、義足の、ユダヤ人弁護士ウルフがいます。肝臓を相当病んでいます。

 話が戻りますが、ルースには、デニーズでウエイトレスをしているジェイニーという娘とハイスクール3年生の末っ子グレゴリーがいます。
 ジェイニーには、目の悪い子どもティナ(5歳)がいます。ティナは、母の耳たぶをいつも触っていて放しません。でも、ミス・ベリルが苦闘していたジグソーパズルを半分以上完成してしまうところもあります。
 ジェイニーには、暴力夫ロイがいて逃げていて、殺されかけてもいます。刑務所に入りました。

 ・・以上、概要、これらの人物が、日々係わって、生活していく様をこの小説は丹念に描いて行きます。大きな事件は起こりませんが、常に、ささいな人間関係の縺(もつ)れ、心の葛藤が起こります。
 ささいな出来事。大なり小なり似たような人生を我々はおくっているように思えます。
 900頁ですが、全く苦にならず、むしろ夢中になって頁を進めました。すごい小説ではありますが、完読するにはやや根気が必要です。じっくり、日々少しずつ、主人公たちの人生を味わう様に、楽しんで行くのも素敵でしょう。★
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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