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篠綾子 『からころも』~ 20余の「万葉集」の和歌を背景にした謎解き物語。自然な和歌解説が巧く挿入されています。

 マスクをして、炎天下など歩けませんねえ。夏は、引き続き、家居、ステイ・ホームが良いようです。

 まずは、余談です。

 9月からの二期会オペラ公演は、来年5月まで一括で買ってありますが、コロナ対策で、「最前列3列と、各席の前後左右1席空けて、かつ、ホール定員の半分にして」公演するとかで、席の変更をするようです。
(オペラは、舞台前にオーケストラ・ピットがあるので、何も最前列を空けなくてもいいように思うんですがねえ)
 二期会ネット以外の、プレイガイドやチケットぴあ等で買った人は、変更では無くて、「払い戻し、買い換え」とか(恐らく良い席が無ければ、再びは買わない人が出るでしょうね)。
 私は、最前列ほぼ中央を買ってあるので、どういう「変更」になるのでしょうか。でも、前後左右が空席って、結構、いいじゃあありませんか。やみつきになりそう。
 もう一つ買ってある、別の10月のオペラは、やはり同じように空席を作って、継続して売っているようですが、私は、2月だったかに、早々と買っているので、どうなるのかな。そのままで、隣席が空いて売らないのかな。

 長く積んであって、さらに、家居、ステイ・ホームの時も、まだ読んでいなかった、最後の一冊、リチャード-ルッツノーバディーズ・フール』を出してきて、読み始めたのですが、何と、今まで無かったほど心に沁みます。後日感想をアップします。上下巻、900頁です。
 そういう長編を読みながら、秋田麻早子『絵を見る技術』も読み始めたのですが、これも有益です。美術館に行くのがますます面白くなりそうです。これも、後日アップします。
 あっ、新刊、宮部みゆき『きたきた捕物帖』恩田陸『土曜日は灰色の馬』も座右にあって、出番を待っています。

 さて本題です。
 きょうは、昔から注目していた作家の新作、

篠綾子 『からころも』(小学館文庫)

です。

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 篠綾子(1971-)の、古典を題材にした作品が、好きですし、「更紗屋おりん雛形帳シリーズ」(2014-2017)と言った時代物もファンです。
 今回は、サブ・タイトルに「万葉集歌解き譚」とあり、「万葉集」を下敷きにした時代物の謎解きです。
 「からころも」の題は、万葉集(巻20)の防人の歌(4401)、
からころも 裾(すそ)に取りつき 泣く子らを 置きてそ来(き)のや 母(おも)なしにして」(訳は、後述)から取っていて、「からころも」は、裾を導き出す枕です。(「新潮日本古典文学集成」5巻284頁)

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 20数首の和歌が散りばめられていますが、主人公たちの会話の中に、自然な形で〈解説〉されますので、肩が凝りません。
 文庫の帯にも「助松とともに和歌を味わおう」と書かれているくらい、楽しめます。

 江戸の薬種・油屋「伊勢屋」の手代・大五郎が、10年前からの薬の卸元、富山の「丹波屋」に出かけたきり行方不明になって1年半。
 12歳になる息子の助松は、伊勢屋の主人・平右衛門に引き取られ、丁稚奉公しています。助松は、父が大切に、秘密と言って残していった、次の6首の和歌の書かれた日記を繰ります。

1 あしひきの 山坂越えて ゆきかはる 年(とし)の緒(お)長く しなざかる 越し(こし)にし住めば
(本歌は、長歌で、次のように続きます。・・住めば 大君(おおきみ)の 敷きます国は 都をも ここも同じと 心には 思ふものから・・・枕づく 妻屋のうちに 鳥座結(とくらゆ)ひ 据ゑてそわが飼う 真白斑(ましらふ)の鷹)

【険しい山や坂を越えて、越中(富山藩)にやって来て、何年も経った。越中も住めば都と思うけれど、どうも心が浮かない。それで、秋の野に出かけ、馬を駆って鷹狩りをする。真っ白なまだらの羽を持つ、私の大事な鷹。※大伴家持が越中に国守として赴任した時の望郷の念を込めた歌。「あしひきの」は山を導く枕。】

2 青旗(あおはた)の 木幡(こはた)の上を かよふとは 目には見れども 直(ただ)に逢はぬかも
【青旗のたなびく木幡の上を通って行く、その姿を見ることはあるけれども、直に逢うことはないのだなあ。天智天皇崩御後、中宮の倭大后(やまとのおおきさき)が詠んだ歌(挽歌〈ばんか〉)。】

3 磐代(いわしろ)の 浜松が枝(え)を 引き結び 真幸(まさき)くあらば また還り見む
【磐代(謀反の罪で、処刑される有馬皇子が、途中通った地名)の浜松の枝を結んで、我が身に幸いがあれば、ここを帰って来て、この松の結び目を見よう。】

4 しなざかる 越(こし)に五年(いつとせ) 住み住みて 立ち別れまく 惜しき初夜(よい)かも
【越中に五年暮らしたが、いざ立ち去る時となると、この地が名残惜しい。※「しなざかる」は、越を導く枕。※大伴家持の歌で、1と対に読めます。】

5 伊勢(いせ)の海の 磯(いそ)もとどろに 寄する波 恐(かしこ)き人に 恋ひわたるかも
【伊勢の海に打ち寄せる激しい波のように、おそれ多いあなたを恋し続けています。※笠郞女(かさのいらつめ)の恋の歌。】

6 からころも 裾(すそ)に取りつき 泣く子らを 置きてそ来(き)のや 母(おも)なしにして
【父が、裾に泣いてすがる、母の無い子を置いて二度と戻れないかも知れない遠い土地に出て行く。防人の歌。「からころも」は、「裾」を導き出す枕。】

 ところで、平右衛門や手代たちは親切で、特に、17歳になる平右衛門の娘・しづ子は、賀茂真淵の弟子で、和歌を助松に手ほどきします。助松は、父の帳面に書かれた和歌について、それとなくしづ子の意味を尋ねたりします。

 「伊勢屋」に葛木多陽人(たびと)という、万葉集をほとんど諳んじている、京生まれ京育ちの陰陽(おんみょう)師・占師が、出入りしています。主人平右衛門は、困った時には葛木に頼り、しづ子も何となく好意を抱いているようですが、葛木は、万葉集よりも狂歌に凝って、平気で公儀批判などしているのは、気に入らないところでもあります。
(多陽人とは、越中〈能登・富山〉で5年間国守であった万葉歌人・大伴家持の父、大伴旅人〈たびと〉から来ているのでしょう。)

 ある日、しづ子、助松、葛木は、神田明神で、腹痛に苦しむ富山藩主・大友主税(ちから)を、反魂丹の薬(反魂〈はんごん〉とは、魂が蘇るという意味もあります。)で助けます。
 しかし、それは、大友が伊勢屋に入り込む方便でした。

 やがて、10年前の富山藩での、重臣・長月家の反魂丹毒入り騒動で取りつぶされた薬種商・千子屋(せんごや)、勘定方一家をめぐる政争で濡れ衣を着た者たちの逆転の目論見に発展します。

 さすがに《ネタバラシ》は止めておきますが、主要登場人物に悪人は、一人も出て来ません。したがって、後味の良い物語です。
 ただし、最後の最後で、「うん?」と思える謎めいた出来事があり、それは、そのまま、読者の想像にまかせて物語は終わります。
 謎は、会話の様に気にする必要が無いのか、深読みして推理していくのか。この物語の最大の読み所は、ここかも知れません。
 でも、これ、新シリーズになるのでしょうか。
 なお、表紙のイラストが可愛い。

 篠綾子さんは、学芸大出身で、古典に造詣が深く、多くの作品を書かれています。ただ、文庫が多く、なぜ、がっしりした大作を書かれないのか、といつも勿体なく思っているのですが。★
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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