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松井今朝子 『江戸の夢びらき』 ~妻であり母である〈恵以(えい)〉から描く初代・二代目市川団十郎の波瀾万丈の人生、生き様に深く感動します。13代目団十郎襲名への激励のような新作。

 このところ、好きな作家の読書が続きます。きょうは二人目、

松井今朝子 『江戸の夢びらき』(文藝春秋)

です。
 夫婦愛、母子愛に満ちた、それでいて、あらゆる要素満載の贅沢な作品です。

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 7月の歌舞伎座、成田屋市川海老蔵(42)さんの、13代目市川團十郎白猿襲名公演が、コロナ禍で延期されて、残念です。
 人は、苦しいときほど、現世を離れて夢に憩いたいものですが。
(そう言えば、6月5日発売の、11月の日生劇場オペラ「ランメルモールのルチア」の発売が延期されました。11月も、まだコロナ危険水域でしょうか。)

 因みに、「白猿」とは、五世市川團十郎(1741-1804。写楽の絵で有名です)の俳名です。
 五世団十郎は、《謙虚》を貫き、祖父の《栢筵(はくえん)》、息子の《柏筵(はくえん)》、自分は《白猿(はくえん)》で、名人上手に毛が三筋足りないことを、「猿は人間に毛が三筋足りない」諺にかけて笑いに言った言葉です。
 その白猿の狂歌に、
楽しみは春の桜に秋の月 夫婦仲良く三度食う飯
というのがあり、ささやかな日常を大切にする心情が伺われます。
 13代目市川團十郎さんの心根も推察できるのではないでしょうか。

 この本を読むと、13代目市川團十郎への間接的な応援歌では無いか、と思わせるほど、初代團十郎(1660-1704)、二代目團十郎(1688-1758)が感動的に描かれています。

 まずは、7歳の時に、8歳の、後の海老蔵・團十郎に〈見初められた〉恵以の、初代團十郎との夫婦愛、その團十郎は、不動信仰が高じて役者に似合わない謹厳さを備え、舞台では、「荒事の開山」として、観客の意表をついた振る舞いで小屋を沸かせます。

 「成田屋」のかけ声は、元禄10(1697)年「兵根元蘇我(つわものこんげんそが)二幕幕切れあたりからです。
 三升屋兵庫の筆名で、それまで歌舞伎が「口跡」中心であったのを、台本も書き、また、井原西鶴門下の京の椎本才麿(しいのもとさいまろ)から、俳句の号「才牛」を与えられました。
 その間、長女の死、子役の次男・千弥の10歳での死、大震災・火災に苦しめられます。

 妻恵以との出会いは、物語冒頭の、自らが厄除けの神となると宣言し、目黒原の土に埋もれた木食の修行僧の姿を共に見て、共に生涯の心象風景と焼き付けた時に、離れた場所にいたとはいえ、互いにその姿を意識して以来でした。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)


 跡継ぎ、九蔵、後の二代目團十郎は、初代が45歳で、役者の生島半六に逆恨みで刺殺されて後、世間・人間関係の苦労を重ねて、初代の七回忌、宝永7(1710)には、「門松四天王」で鳴神を演じ、翌年には、「信田金色鱗(しだこんじきのうろこ)を、正徳3(1713)には、「花屋形愛護桜」を成功させます。
 初代が、中村座で鳴神を演じたのは、1684年、25歳の時でした。因みに、鳴神は、雷のことです。

 それは、まさに、初代の「荒事の魂」を承継にし、また、大和絵の技法から「隈取り」なども生み出し、さらには、「実事」、「和ごと(やわらか事)」にも技巧を広めたわけです。
 初代と違って、自ら台本は書きませんでしたが、新しい発想を、津打治兵衛(つうちじへい)や、その門下の津打半右衛門に台本化してもらいました。

 その間、初代が苦労したような災害、不二山爆発にも襲われました。  
 初代で物語の山場が終えたかと思っていると、本書後半は、じっくりと2代目の成長を辿って、最後まで物語に引きつけます。

 初代の周辺人物、共に長生きした、父・幡谷重蔵(薦(こも)の重蔵とか、面疵(つらきず)の重蔵、とか呼ばれた昔です)と母・が印象深く、二人が、成田山のお不動に願掛けして生まれたのが初代です。

 恵以の父親・間中十兵衛(「遅蒔き十兵衛」と渾名されます)は、元北条家家中でしたがいまや、教養豊かで、武術にも秀でる「知略の牢人」です。恵以の母は、早くに死んでいます。

 芝居町は、多くの町奴が牛耳っていますが、中でも、何かと初代を助ける、唐犬(とうけん)十右衛門や、
 幼い時に見初めた恵以を、初代と結ばれるまで他の男から〈守る〉荒くれ者熊次、虎三も印象深く、物語を盛り上げます。
 その他、何と言っても、二人の生涯に多く現れる悪者・・牢人、町奴、役者仲間、座元(中村座・山村座・中村座)・・が魅力的で、人生、そう簡単に行かない見本を何度も示します。

 人の嫉妬、誤解、虐め、世間のあらぬ噂・・、これらに、二人と恵以は、果敢に挑んで行きます(もっとも、初代は刺殺されてしまいましたが)。

 これら全てを人生に見て来たのが、恵以、最後に、髪を落として、栄光尼と名のります。
 團十郎の生涯だけでなく、江戸歌舞伎史ともなっていて、歌舞伎小屋の描写も豊かで、惨い場面も、悪人の非道も、読んでいて、不思議とアクと嫌みがありません。
 まさに、松井今朝子さんでなければ書けないであろう作品です。
 実に、面白かった。

 冒頭に「このところ、好きな作家の読書が続きます」と書きましたが、もう一人いて、その三人目の作品を、いま、読んでいます。★
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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