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朝井まかて 『輪舞曲(ロンド)』 ~ 逆光の中、輪舞曲を舞うように語られる「伊澤蘭奢」像に深く感動しました。創生期の新劇史としても貴重な作品です。

 大好きな作家の一人である、朝井まかて(1959-)さんの新刊です。

朝井まかて 『輪舞曲(ロンド)』(新潮社)

 新劇女優・伊澤蘭奢(いざわ らんじゃ。1889-1928(38歳))の短い生涯を描いています。

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 新潮社の月刊PR誌「波」5月号の〈刊行記念特集〉で知り、すぐに買いに走りました。
 すでに、夏樹静子(1938-2016)さんも、「女優X 伊澤蘭奢の生涯」(1993。文春文庫=1996年刊)で、この人物の伝記を描いているのを、読了後に知りました。

 読み終えた後、何とも言えない静かな余韻がに包まれました。
 それに、いつもながら、著者の、多くの表現(「涕泣して袖を絞る」、「門付芸人のごとく笑顔を崩さない」等々・・)を知り、それも、楽しむことが出来ました。

 輪舞曲(ロンド)、とはなるほど巧い題名を付けたものです。
 伊澤蘭奢の生涯が、愛人・内藤民治恋人・徳川夢声火遊びの相手・福原清人、幼くして棄てられた一人息子・伊東佐喜雄の側面から、輪舞曲のように、同じ調子で主題が繰り返され、その間に副主題が挿入されて描かれて行きます。

 内藤民治は、「中外」編集主幹など幾つかの会社を営みます。徳川夢声(1894-1971)は、本名・福原駿雄(としお)の活動弁士です。〈徳川〉という横行な苗字は、活動していた〈赤坂葵館〉の葵から付けました。福田清人は、帝大生、ほぼ同年代の息子佐喜雄は、第2回芥川賞候補にもなった作家です。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)


 さて、伊澤蘭奢(本名・三浦繁(シゲ))。
 津和野に生まれ、東京の大学卒業後、地元の漢方薬種商・伊東治助と結婚します。夫の事業で東京に出ますが、その事業に失敗して津和野に戻ります。
 やがて、27歳の時に「女優になる」と家を出て・・、
近代劇協会(上山草人主宰)→新劇協会(畑中蓼坡(りょうは)主宰)→(松竹・13本の「写真」に出たが、舞台で無いので本意では無かった。)→再び新劇協会
・・で、貧困に喘ぎながら新劇に挑みます。
 「40歳になったら死ぬの」と言っていましたが、女優生活11年、そのピークに38歳の生涯を閉じます。

 本書は、その生涯を、4人の男たちから、逆光に見るように、抑制された文章で描いて行きます。
 華やかでなく、貧困を苦ともせず、しかし、内面に鬱屈を抱えた人物として描かれます。
 人生を過ぎ去った男たち・・、
17歳の時、22歳の蘭奢を知った夢声、
晩年1927年に知り合った帝大生で文学誌を主宰する清人、
長いパトロン、助言者である民治
・・との関係も「静か」です。
 息子思いは、やはり母親ですが、女優として母を棄てなければなりませんでした。

 この時代の芝居は、賤業で、また、女優など少なかった時代です。
その時代に、30前から女優を目指した苦労、その情熱と鬱屈は、並大抵ではありませんでした。このところを、本書は、時代の演劇史を俯瞰するように丁寧に描いて行きます。
 じっくり描写される蘭奢演ずるラネフスカヤ「桜の園」の舞台は、嚢中(のうちゅう)の錐(きり)の突き破って頭角を現す場面で、圧巻です。

 3人の輪舞曲のように描かれたと表現しましたが、3人にとっては、
いくつもの蘭奢が、繁(注:蘭奢の本名)が輪になって踊り出す。幾重もの輪が夢声を囲み、音にな」ったのかもしれません。

 深い、静かな感動を味わった、またしてもこの作家が好きになった、一冊です。
 今度は、松井今朝子「江戸の夢びらき」で、江戸の團十郎の物語を読んでいて、楽しさが続きます。★
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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