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井上ひさし『十二人の手紙』 ~ 様々な形式で描かれる、様々な、重い、人生の物語。

 コロナ危機で、いざとなっても検査もなかなかしてくれない、万一、陽性でもアビガンは使ってもらえず、自宅待機などということがあり、兎も角、自己防衛で外出しないで、うつらないことを第一にしていますから、今年は、桜の咲いたのも、散るのも見ませんでした。

 そこで、この際、書斎の未読の本を読み尽くそうと、いわば、《読書の終活》をしようと思い立ちました。
 先日アップした、二冊組みの、堀田善衛 『定家明月記私抄』が、その最初の本でした。
 ところが、棚の目立つところにあった、十数年前に読んだ、辻邦生「西行花伝」が、どうも、気にかかって仕方ありません。このところ日本中世の本を読んでいるせいもあります。そこで、細かい活字で、500頁を超える同書ですが、今、読んでいます。

 途中、気分転換に、先日、朝日新聞読書欄で紹介されていた、1980年の本の改訂7刷、

井上ひさし『十二人の手紙』(中公文庫)

を、2週間前に買ってきて、床に入って、寝る前に読みました。

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 帯に「読んでいないなんてもったいない」、「隠れたミステリー」、「どんでん返しの見本市」、「井上ひさしの底力に打ちのめされる1冊」、「濃密な人間ドラマ×超絶技巧」とPR表記されています。
 そのとおり。まさに、その帯で言い尽くされています。
 私は、特に、聾唖者の文章理解を扱った著者の知識や、1980年出版なのに、すでに、核廃棄物廃棄場探しの問題、などに触れられているのに驚かされました。

 しかし、しかしです。物語がみな重いんです。不幸な少女の登場が多くて、読んでいて、暗澹となって、特に、夜寝る前は愉快で無くなるから、読むのを止めようかと思ったほどです。
 でも、面白いので、本当に面白いので、全部読んでしまいました。
よかった、全部読んで。最後の「エピローグ」で、12の物語の登場人物が、揃って、もう一度出てくるとは思いませんでした。

 重い、暗い、その例は・・、

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

  「プロローグ 悪魔」。東北から東京の会社に、新卒で就職した女性が、若い社長に熱をあげ、不倫して、社長の妻にバレて捨てられ、ひょんな拍子で社長の幼児殺すまでの、父母(これも、随分、問題を抱えているのですが)、弟、親友や元担任教師との手紙のやり取りを、出だしからか、オーソドックスに書かれています。
 本書全部がこの調子かと思うと、全ての章、それぞれ全く違う趣向です。ここが、井上ひさしの凄いところでしょう。
 なお、この出だしの主人公と弟は、「エピローグ」で、とんでもない再登場します。

 私が、最も気に入ったのは・・、
 「赤い手」。不幸な少女の27年間を、無機質な様々の届け出書類で淡々と描き、最後に、主人公が事故死してしまう直前に書いた、一通の手紙が心を打ちます。

 面白い趣向は・・、
 「葬送歌」。めったに読者からの手紙に返事を書かない有名作家が、ある女子大生から戯曲の批評を頼まれ、つい酷評した手紙を出します。
 しかし、その作家が考えてみると、その戯曲は、自分の若い頃に書いた不出来な作品だったというもの。女子大生は、まんまと、作家からの酷評の「返事」を手に入れて、大学演劇部主催の同作家展に展示します。女子大生してやったりの結末でした。

 以下、ざっと書きますと(ネタバラシになっています)・・、

 「ペンフレンド」。高校を出て、浅草橋の文具問屋に就職したOL1年生が、初の北海道旅行を計画して、旅の雑誌で、案内を請うペンフレンド募集をします。
 ペンフレンドに三通の応募があったが、本命で選んだのは、実は、職場の前に座る風采のあがらぬ青年だったというもの。なお、悪戯に送られて来た、エッチな手紙も面白い。

 「第三十番善楽寺」。最後の1頁で知る、交通事故で人を死なせ、自らも身体障害者となった男性の、重い生き様。

 「隣からの声」。ややホラー的な、夫の単身赴任中の妻が、幼い頃の経験から、心を病んでいく物語。夫が、オーストラリアに、核廃棄物廃棄場を探しに行っている設定が現代にも通じる見事さ。映画「シャイニング」のような趣向です。

 「」。聾唖者に、〈同音異字〉は無い、という知識を元に書かれた、やはり夫が長期に出かけた妻の帰って来て欲しいという、手の込んだ悪戯の物語。

 「」。有閑マダムたちの押しつけがましい寄付探しの物語。ただし、この作品については、引用される物語が、やや不釣り合いに感じて、あまり感じ入りませんでした。

 「シンデレラの死」。不幸な少女の、大人になって俳優をめざすが、結局、騙された不幸で自殺した女性の、脚色した手紙の物語。

 「玉の輿」。幼少期不幸な少女が、毎夜、父の酒を買いに行っていた酒造会社の若社長に見初められて後妻に入るが、流産して、追い出された物語。

 「里親」。売れない小説家に魅入られた女子大生。その恋人の小説家の師が、自分のネタを取ろうとしたと、殺してしまったが、ネタが「砂糖屋」を「里親」と、とんだ聞き違いをしていた物語。井上やすしの面目躍如。

 「泥と雪」。死んでいる幼馴染みに扮して、社長の愛人から依頼されて、社長の離婚に手助けする物語。

 「エピオーグ ー 人質」。主に、「プロローグ」と対の物語。
 プロローグで登場した女性の弟が、衆人環視の前で、手の込んだ方法で、姉の愛人だった社長に復讐して殺します。劇作家井上ひさしの実力発揮です。
 「鍵」で登場した聾唖者の主人公が、謎を解くが、なにせ状況証拠なので、そのままになります。

 面白いが、実に面白いが、先に言いましたように、あまりに不幸な物語は、寝る前には、年寄りの私には、もう、愉快ではありませんでした。★ 
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Re: タイトルなし

 《最前線》で、ご活躍のようですね。お疲れ様です。
 コロナの流行以来、ほとんど家にいますが、もともと家好きなので、あまり気になりません。遁世しているよなものです。
 明日は、西行をアップしようと思っています。
 お体ご自愛ください。ありがとうございました。

ああ、母にこの本の買って送れ、と言われたのは新聞に載ったのですね。読み落としていました。

私の勤務先はアビガン、バンバン使っていますが(たぶん臨床研究施設)、「アビガンすげー!!」と良くなる患者さんと、「やっぱりだめじゃん」という場合とあって、本当に効いているのか自然経過なのは、統計解析しないとまだわからないと思います。

感染者と対面で食事するのが一番危ないと言われています。
お家にいて、ちょっとお使いに行くくらいなら、きちんと手を洗って顔を触らなければ大丈夫です!

Re: 西行「山家集」を拾い読みし始めました。

 ありがとうございます。昨晩から、「山家集」を拾い読みしています。家居するには、このような読書が向いています。

西行

こんばんは!
白洲正子さんの『西行』を読んだことがありますが、西行愛一徹の女性の視点として楽しめました。
ご主人白洲次郎は、一言「わからん」と言ったそうですが(笑。
いつも楽しいお話、ありがとうございます♪
プロフィール

感動人

Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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