FC2ブログ

山本浩貴 『現代美術史』 ~ 多様な思想を、多様なメディウムで表現した〈何でもあり〉の現代美術。そのごく直近の現在までを、丁寧に俯瞰した好著です。

 近時は、読書、オペラと現代美術が「趣味」になっています。
 今日の本は、この半年で数冊目になる〈現代美術〉の本で、

山本浩貴 『現代美術史』(中公新書)

です。

202002231514128ae.jpg 

 新書とはいえ、内容は、重厚です。読み終えるのに、結構、時間を要しました。
しかし、決して難解と言うのではありません。
 本書は、著者のロンドン芸術大学の博士論文審査後に1年間で執筆したとあって、心なしか余熱のようなものを感じます。
 余談ながら、著者の指導教官の一人が、黒人女性作家(第3世界フェミニズム)のソニア・ボイス(1962-)です。

 本書中には、マルセル・ヂュシャンの『泉』の作者は、エルザ・フォン・フライターク=ロリングホーフェン(1874-1927)ではないか、という類書に無い記述があったりして興味をひきます。

 ところで、私が、表題で遣った〈メディウム〉というのは、狭義では、絵具を溶かす触媒ですが、広義には、画家が、自己の思考を目に見える形で表現するのに遣う素材などを意味します(因みに、複数形は、メディア)。かつての絵画の絵具や彫刻の大理石だけでなく、現在は、あらゆるものを遣います。ほんとうに、あらゆるもの、です。
 ここで、一つの《何でもあり》があるわけです。
 余談ですが、『西洋美術の歴史 8(20世紀)』(中央公論新社)で読んだ、体を傷つけたり、尿や糞の〈作品〉表現などは、〈何でもあり〉と言っても、さすがについて行けない感じがしました。

 そして、当然ながら、印象派以降、作品は、対象を正確に表現するのでは無くて、感じた心、頭の中にあるものを表現します。それは、場所によっても変化します。つまり、鑑賞者の積極的な関与なくしては成立しません。当初は、そんなのは、未完成品だなどと言われました。
 なお、さらに、作品物体そのものでは無くて、展示室の空間そのものを作品とするものが多くなりました(インスタレーション)
 そして、その心の物差しも、シュールレアリズムなど様々な思想・哲学があります。

 さらに、感じた心、も、1990年代以降は、社会との係わりで多様性、多文化主義(マルチカルチュラリズム)があります。2000年以降は、ジェンダー、エスニシティ(民族性)など社会と係わる芸術(ソーシャリー・エンゲージド・アート。《エンゲージ》とは、関与。)が中心となって来ました。

 あらゆる言説の正当性を担保する理念や全人類に妥当する価値観、いわゆる《表象》も揺らぎました。(ジャン=フランソワ・リオタール『ポスト・モダンの条件」(1979)』)

 このような状況を丁寧に踏まえて本書は記述されています。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 本書の一番の特色は、《現代美術》の〈歴史〉の、主に第2次世界大戦後から、現在まで、それも、ほんの直近までが書かれていることと、
 西洋史ばかりではなくて、約1/3は、日本の状況、つまり・・・、

 アンフォルメル【1956-】から、
柳宗悦(1889-1961)らの民芸運動【用美相即。つまり、用を離れて美は無い】・濱田庄司(1894-1978)の民衆的工芸、
九州派【1957-67】、
具体美術協会【1954-72】、
マヴォ(MAVO)【1923-。村山知義、柳瀬正夢、高見沢路直(後の、田河水包・・余談ながら、妻潤子は、小林秀雄の妹・・)など】、
三科【1924-25。木下秀一郎(1896-1991)】、
日本の「フルクサス」【fluereは、「流れる」の意味。オノ・ヨーコ、武満徹など】、
シミュレーショニズム【福田美蘭、森村泰昌など】
などから「反万博」までについて触れられていることです。

 余談ですが、福田美蘭の黒田清輝「湖畔」(1897。これは、1900年パリ万国博覧会出品作です)をモチーフにした作品「湖畔」(1993)が、埼玉県立近代美術館「コレクション展 第4期」(2020年4月19日まで)に出品されています。

 それは、従来の、西洋中心主義で、西洋から周縁への一方的影響という見方を改めているからでもあります。
 ただ、日本の状況についても、《もの派》【1968ー】や藤田嗣治と戦争画については、やや舌っ足らずです。
 なお、戦争画のところで、最後の最後になって、《未来派》に触れられていますが、本書で、そんなににも好戦的だったと知りました。

 前記の、「ほんの直近まで」、について言えば、《ブリチッシュ・ブラック・アート》以降の政治的な状況に係わる美術については、随分、(やや飽きるほど)頁を割いています。
 〈あきる〉などと口が滑りましたが、それが・・ジェンダー、エスニシティ(民族性)から慰安婦、在日コリアン、沖縄、台湾・韓国問題など・・真実の状況なのでしょう。リレーショナル・アートが柱の一つですから。

 私的なことを述べれば、私は、昨年初夏から、現代美術について集中的に読書して来ました。
 あえていえば、第1冊目が、〈フォーマリズム〉(造形的側面)重視の批評家クレメント・グリーンバーグに関する、
柳良「近代絵画史」(美術出版社)で良かったと思います(ブログは、2019年6月9日付)。
 抽象表現主義を学ぶと、「描く人の内面を知る」(ハロルド・ローゼンバーグ)ために、現代画家の伝記(ウォーホル、ポロック、ダリ・・)も学ぶことになりました。

 また、その間、現代美術展・美術館にも通いましたし、古書店で、昔の展覧会の「図録」を買ったのも良かったと思います。
 一昨年ではありますが、「マルセル・ディシャン」展は、今となっては、格別、有益でした(ブログは、2018年10月7日付)し、あえて言えば、意識的な展覧会観賞を、現代アメリカ絵画の抽象表現主義(埼玉県立近代美術館の「ニューヨーク・アートシーン」展)から始めたのも的確でした。

 そういう道を辿って来て、おぼろげながら、《現代美術》の骨格が理解できているところに、今日の本を読んで、さらに、随分理解が進みました。読了後、パラパラとですが、重要と思われるところを再読しました。
 良い書物に邂逅しました。

 なお、今、19世紀絵画に遡る形で、
『西洋美術の歴史 7(19世紀)』(中央公論新社)を読んでいます。
 現代絵画を先に知っておくと、世界的なマクロな流れで、世界の絵画史、特に、レアリズム絵画以降の印象派との葛藤が、自然主義、ラファエル前派・唯美主義も絡んで、実に、面白いところです。何れ、アップします。★
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

感動人

Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

最新記事
最新コメント
FC2カウンター
検索フォーム
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

記事のカテゴリ
読みたいテーマを選択してください。
リンク
RSSリンクの表示