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宮部みゆき 『黒武御神火御殿』 ~悪しき魂の器である屋敷からの乾坤一擲の脱出物語など、相変わらず素晴らしい語りぶりの物語4編で、570頁を一気に読んでしまいます。

 楽しみにしていた、6冊目の「三島屋変調百物語」、

宮部みゆき 『黒武御神火御殿』(毎日新聞出版)

です。

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 今回から、「変わり百物語」の聞き手が、瓢箪古堂(貸本屋)の勘一のところに半年前に嫁に行った、おちかから、三島屋・次男の富次郎(22歳)になりました。
 守り役は、お勝です。疱瘡後が、禍祓いになっています。

 語り手に出す菓子・・上野池之端の《田植傘》とか、《流水の葛寄せ》とか、羽二重大福とか・・が、美味しそうで、実際にあるのか、ついネットで探してしまいます。
 さて、最初に聞いた話は、幼馴染みの、豆腐屋の八太郎からでした(「第一話 泣きぼくろ」)。
 今回、「第三話  同行二人(どうぎょうににん)」などは、後味が良い物語になっています。

 「聞いて聞き捨て、語って語り捨て。名乗らず、細部を隠してもよい」約束の語り。
 表題作の、第四話『黒武御神火御殿』は、261頁から569頁という〈大作〉です。
「毎日新聞」の連載で読んだ方は、2018年8月から2019年7月まで、毎日、楽しみに過ごせたでしょうね。

  さて、ここからは、いわゆる《ネタバラシ》満載となります。

(以下、下記の「続きを読む」をワン・クリックしてお読みください。)

 〈黒武〉とは、黒い兜と鎧の漆黒の武士、〈御神火〉は、大島三原山の噴火を象徴しています。
 キリシタン武士で、大島に遠島になり、火口に飛び込んだ怨念の炎の籠もった〈御殿〉に、6人の心に罪がある男女が、神隠しの様に掠われて閉じ込められます。

 6人は・・、
 ・質屋「二葉屋」の台所女中・お竹、30代、
 ・札差の3男の放蕩息子で、博徒の梅屋甚三郎、30代、
 ・深川の船大工でアル中の亥之助、
 ・日本橋の薬種商の番頭、正吉、26歳、
 ・原宿村の隠居地主の妻、老婆のおしげ、
 ・九州栗崎藩家臣で目黒の江戸家老側近の、堀口金右衛門親房、40代、
です。

 お竹が、だんだん魅力的になって行きますが、助かった後は、すっかり老けてしまいます。
 ・お竹は、母を庇って遊び人の父を殺した、
 ・甚三郎は、放蕩の限りを尽くしている、
 ・亥之助は、娘を売り飛ばして酒代にする、
 ・正吉は、人妻に岡惚れして手を出した、
 ・金右衛門の藩では、キリシタン大名の諍い、
という、人に言われぬ過去を持っています。

  黒武御神火御殿に閉じ込められた6人は、亥之介は首を落とされ、正吉は氷水の湖水の怪魚に襲われ、老婆おしげは巨大蝗(いなご)に襲われて死んでいきます。
 残った、お竹、甚三郎、金右衛門が、乾坤一擲の戦いを御殿の怪異に挑みます。
 金右衛門は、怪異の首を落としますが、炎にまかれて焼け死に、お竹と甚三郎は、大けがをしつつも脱出しました。

 3年の月日がたっていたと感じたが、3日しかたっていませんでした。
 甚三郎が、富次郎に「百物語」として顛末を語り、弱って死にます。お竹も、頭がすっかり白髪になっていて、富次郎に会います。

 話が前後しますが、第一話は、泣きぼくろ。泣きぼくろの亡霊に取り憑かれた、長兄の嫁、次兄嫁、長姉の話で、それぞれ、次姉の婿の予定の奉公人、手代、父に〈言い寄る〉物語です。
 このあたりは、既読感のようなムードがあり、ややマンネリかな、とも思ってしまいますし、ちえ・・ちえ自身も心の闇を抱えていて、聞き役になったところもあります・・と、ちえを補佐する富次郎から、今度は、富次郎一人の聞き手になるので、やや物足り無さも感じます。
 それに、570頁の書物は、開くのにやっかいで、重くもあり、やや読みにくさもあります。でも、さすが宮部みゆきの語り部は堂に入って、やはり面白い。

 同じように、第二話は、ひい婆様の嫁いびりに発する因縁話を今は家を出て、幸せに暮らす、四〇路の絹織物屋の花が語る「姑の墓」。
 因果因縁に腹を立てた、実家の嫁お恵も、花見の為に墓所の丘に登ってはいけないという言い伝えを破って、死んでしまいます。しかも、蹴落としたのは、優しい姑の狂い。息子が嫁を迎える時期になった花が悩んだ話です。
 暗い、因縁話で、後味はあまり良くありません。

 逆に、後味の良いのは、第三話 「同行二人(どうぎょうににん)」。
 流行病で妻子を失った、走り飛脚の亀一が、箱根峠の茶屋の、やはり妻子を失って行き場のない霊に、箱根山、沼津宿、府中宿、金谷宿と付きまとわれますが、金谷宿の支配人(番頭)の助言で、その霊を慰め(「福であれ、障りであれ、拾ったものは、元に戻す」)、自分の心も救われる、という50歳の語りです。
 妻子を亡くして悲しむ似たもの同士に霊が付いたとか、その霊が、のっぺらぼうの顔なのは、泣く姿を見せないためだった、というのは、それを知ると心を打たれます。

 まずは、物語冒頭の、「卯の花」や「卯の花腐(くだ)し」、それに、亀戸天神の「卯槌(うずち)」の話が、興味にひかれます。

 物語全体の理屈が良く計算されていて、その巧さに唸ってしまいます。

それに、いろいろな表現、例えば・・、

「蝉(せみ)の抜け殻みたいに油っ気がない」とか、
「〈ほ〉〈ぽ〉という顔つき」とか、「地獄の牛頭馬頭(ごずめず)」とか、
「説教のやり方に技(わざ)がある」とか、「無事に身二つになった」とか、
さらには、私など「この世にいるうちに味わっておきたいことが目について、心がそちらに向くようになった」などは全く同感する言葉が次々と出てきます。

 また、「新前」とは、新しい前掛けを貰うことから来ている、
江戸「朱引き」(朱引内)【しゅびきうち。江戸の御府内、つまり江戸の町。町奉行の支配する「墨引内(すみびきうち)」より広い】の中に飛脚問屋が約70軒あったことやその種別など、ちょっとした知識もたくさんあります。

 宮部みゆきさんは、本当に、稀代のストーリー・テラーだと思います。本当に、素晴らしい
 ただ、悲しいこのような「百物語」は、これで、もう当分(当分、なんですが)いいかな、とも思ってしまいます。心が疲れてしまいそうなんです。★
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Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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